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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)210号 判決 1995年9月14日

神奈川県川崎市中原区上小田中1015番地

原告

富士通株式会社

同代表者代表取締役

関澤義

同訴訟代理人弁理士

齋藤千幹

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

小峰利道

木下幹雄

幸長保次郎

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が平成5年審判第362号事件について平成5年9月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年10月14日、名称を「プリンタにおける用紙の自動セット機構」(後に「プリンタ」と補正)とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(昭和58年実用新案登録願第159115号)をし、平成2年11月29日出願公告(平成2年実用新案出願公告第45011号)されたが、実用新案登録異議の申立てがなされ、平成4年10月23日拒絶査定を受けたので、同年12月29日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成5年審判第362号事件として審理した結果、平成5年9月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年11月4日原告に送達された。

二  本願考案の要旨

回転駆動されるプラテンと、

該プラテンと同期して回転され、プラテンに印字用紙を供給する用紙移送機構と、

移送されてきた印字用紙をプラテン表面の印字領域に接触するために、プラテンの表面に接触して回転するベールローラと、

プラテンの表面に接触する第1の位置と、プラテンの表面から離れた第2の位置との間において前記ベールローラを揺動する駆動源と、

前記用紙の移送方向に対して用紙移送機構の後段に設けられ、用紙移送機構によって移送される用紙の先端を検出する用紙検出部と、

オペレータによって押下可能であって、用紙の自動装填を指示する用紙セットスイッチと、

制御部とを有し、

該制御部は、

前記用紙セットスイッチの1回の押下動作に応答して印字用紙をプテランに向けて連続して移送するように前記用紙移送機構を制御し、

その移送中に前記用紙検出部が用紙の先端を検出したことにより、

前記ベールローラが第1の位置から第2の位置に揺動するように前記駆動源を制御するとともに、用紙の移送量の計数を開始し、その移送量が所定の値に達した時点で、前記用紙移送機構による用紙の移送を停止し、かつ前記ベールローラが第2の位置から第1の位置に揺動するように前記駆動源を制御することを特徴とするプリンタ。(別紙図面1参照)

三  審決の理由の要点

1  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

2  これに対して、本願の出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願昭58-129731号(特開昭60-21275号公報)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている。(図面については、別紙図面2参照)

(ア) 簡素な構成により安定した用紙の自動吸入機構を実現し、加えて用紙の自動装着機構を有した印字装置を提供することを目的とする。

(イ) パイロットローラーシャフト33には、パイロットピン34が同一ピッチで形成されたパイロットピンローラ35が、パイロットローラーシャフト33の回転と同期して回転する如く形成されている。

(ウ) 紙送りトラクタシャフト4とプテラン2とは紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構(図示せず)を介して回転し、用紙5を給送する紙送り機構を形成している。(なお、これは、第1、2図の従来技術に関する記載ではあるが、第3図の実施例の説明では、「その他の構成は第1、2図の従来の構成と同一のものである。」と記載がある。)。

(エ) 第3、5図の実施例とその実施例の処理手順を示す第9図のフローチャートの説明によると、第3図の実施例によって、連続用紙を装着するための動作は次のようなものである。

<1> 連続用紙5の送り孔6をパイロットピン34に係合させ、パネル29の紙送りスイッチを押し下げると紙送りモータが駆動し、連続用紙5をプテラン2と用紙ガイド板15との間に案内する(ステップ(c))。

<2> 連続用紙5がセンサー17により検出されると、フリクションローラー11を連続用紙5をプラテンに圧着させるように、フリクションプランジャー駆動部に制御信号が出力される(ステップ(d))。

<3> センサー17の検出信号を受けると、紙押えレバー19がプラテンから離れた位置にあるか、プラテン側に倒れた位置にあるかを検出し、離れた位置にあればその状態を保ち、倒れた位置にあれば紙押えプランジャー駆動制御手段40に制御信号が出力されて紙押えレバー19をプラテンから離反させ、紙押えローラー18をプラテンから離れた開位置とする(ステップ(e)、(f))。

<4> センサー17の検出信号を受けると、紙送りモータ駆動制御手段38は紙送りモータ駆動部45を制御駆動するとともに、紙送り量を計数手段で計数する(ステップ(g)、(h))。

<5> 計数手段の計数値が規定値に達すると、紙送りモータ駆動制御手段38は、紙送り機構部を停止させ、紙押えプランジャー駆動制御手段40に制御信号が出力されて紙押えレバー19をプラテン側に倒し、紙押えローラー18を連続用紙5と共にプラテン2に圧接させる(ステップ(h)、(i)、(j))。

3  本願考案と先願明細書に記載された発明(以下「先願発明」という。)とを比較する。

(1) まず、先願明細書の前記(イ)、(ウ)の記載、ならびに、第1、2図に関する記載と第3、4図に関する記載から、先願明細書のパイロットピンローラ35とプラテン2とは紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構(図示せず)を介して回転し、用紙5を給送する紙送り機構を形成しているものであると認められるので、先願明細書の「パイロットピンローラ35」「パイロットローラーシャフト33」「紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構を介して回転し、用紙5を給送する紙送り機構」は、本願考案の「用紙移送機構」に相当するものと認められる。

また、前記(エ)の記載から、先願明細書の「紙押えローラー18」「紙押えプランジャー駆動部」「センサー17」「紙送りモータ駆動制御手段38」と「紙押えプランジャー駆動制御手段40」と「計数手段」とを含む「制御部47」(第5図)は、それぞれ、本願考案の「ベールローラ」「ベールローラを揺動する駆動源」「用紙検出部」「制御部」とに相当するものと認められる。

(2) したがって、本願考案と先願発明とは、「回転駆動されるプラテンと、該プラテンと同期して回転され、プラテンに印字用紙を供給する用紙移送機構と、移送されてきた印字用紙をプラテン表面の印字領域に接触するために、プラテンの表面に接触して回転するベールローラと、プラテンの表面に接触する第1の位置と、プラテンの表面から離れた第2の位置との間において前記ベールローラを揺動する駆動源と、前記用紙の移送方向に対して用紙移送機構の後段に設けられ、用紙移送機構によって移送される用紙の先端を検出する用紙検出部と、オペレータによって押下可能であって、用紙移送機構の駆動を指示するスイッチと、制御部とを有し、該制御部は、前記用紙移送機構の駆動を指示するスイッチの押下動作に応答して印字用紙をプテランに向けて移送するように前記用紙移送機構を制御し、その移送中に前記用紙検出部が用紙の先端を検出したことにより、前記ベールローラが第1の位置から第2の位置に揺動するように前記駆動源を制御するとともに、用紙の移送量の計数を開始し、その移送量が所定の値に達した時点で、前記用紙移送機構による用紙の移送を停止し、かつ前記ベールローラが第2の位置から第1の位置に揺動するように前記駆動源を制御することを特徴とするプリンタ。」である点で一致する。

そして、両者は、本願考案では、用紙移送機構の駆動を指示するスイッチが、用紙の自動装填を指示する用紙セットスイッチであり、用紙セットスイッチの1回の押下動作に応答して印字用紙をプラテンに向けて連続して移送するように用紙移送機構を制御するのに対して、先願発明では、用紙移送機構の駆動を指示するスイッチである紙送りスイッチが、用紙の自動装填を指示するかどうかは不明であり、また、紙送りスイッチの1回の押下動作に応答して印字用紙をプラテンに向けて連続して移送するように用紙移送機構を制御するかどうかも不明である点で、一応相違する。

4  上記相違点について判断する。

(1) スイッチを押下動作すると、その押下動作の都度信号が生ずるようにスイッチの回路を構成するか、1回のスイッチの押下動作でその信号を保持するようにスイッチ回路を構成する(以下このような構成のスイッチ回路を「自己保持型スイッチ」という。)かといったことは、回路設計に際して任意になし得る単なる設計的事項である。また、自己保持型スイッチを連続用紙の用紙移送の制御に用いることは、例えば、特開昭52-17908号公報の用紙セットスイッチ14に示すように、当業者に周知の事項である。

(2) そして、先願明細書には、ステップ(g)の「紙送りモータON」にいたるまでの期間中は、「紙送りスイッチ」を押し続けるとか、複数回押下するという記載はないのであるから、先願明細書の「紙送りスイッチ」は自己保持型のものであると解するのが自然である。

ところで、先願明細書の連続用紙の装填についての説明によれば、「ステップ(g)で紙送りモータ駆動制御手段38は紙送りモータ駆動部45を制御駆動するとともに紙送り量を計数手段で計数する。」(甲第12号証4頁右上欄12行ないし14行)とあり、連続用紙を装填する場合に、ステップ(g)で「紙送りモータをON」するとは記載されていないが、第9図のフローチャートには、これに反して「ステップ(g)で紙送りモータをON」する旨記載されているので、これについて検討する。

先願明細書の、第3、5図の実施例は、単票用紙と連続用紙の双方を自動装填するものであるため、その実施例の処理手順を示す第9図のフローチャートは、ステップ(c)において、前記<1>の処理がある以外は、単票用紙の装填と連続用紙の装填の双方に共通するフローチャートとなっている。そして、単票用紙の場合は、センサー17で用紙を検出してはじめて「紙送りモータをON」とするものであることは、先願明細書の記載から明らかであるから、ステップ(g)ではじめて「紙送りモータをON」としているものである。ところが、連続用紙の場合は、すでに、パネル29の紙送りスイッチを押し下げて紙送りモータを駆動しているので、第9図のフローチャートのステップ(g)で「紙送りモータをON」することは不要であり、したがって、前記に引用したように、甲第12号証4頁右上欄12行ないし14行には、連続用紙を装填する場合に、ステップ(g)で「紙送りモータをON」するとは記載されていないのである。このことは、ステップ(g)が、例えば、紙送りモータをONするための信号はOR回路の出力であり、「紙送りスイッチ」による信号は当該OR回路の一方の入力信号であり、「センサー17」による検出信号は当該OR回路の他方の入力信号であるような回路で表現し得るものであることを示しており、また、このような回路で表現し得るからこそ、単票用紙と連続用紙の双方を自動装填する第3、5図の実施例は、単票用紙の装填と連続用紙の装填の双方に共通する第9図のフローチャートによって、その処理手順を示すことができるのである。してみると、先願明細書の「紙送りスイッチ」は自己保持型のものであると解するのが自然である。

したがって、先願明細書の「紙送りスイッチ」は、紙送りスイッチの1回の押下動作に応答して印字用紙をプラテンに向けて連続して移送するように用紙移送機構を制御しているものであり、また、1回押下動作すれば用紙の自動装填が行われるものであるから、用紙の自動装填を指示するものであるということができるものであり、前記相違点は、先願明細書に実質的に記載されていると認められる。

さらに、本願考案と先願発明とに、目的、効果の点で何ら差異があるものとは認められない。

5  以上のとおりであるから、本願考案は、先願発明と同一であり、また、本願考案の考案者が前記先願の発明者と同一であるとも、本願の出願時にその出願人と前記先願の出願人とが同一であるとも認められないから、本願考案は実用新案法3条の2の規定により実用新案登録を受けることができない。

四  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1は認める。同2のうち、(エ)<4>は争い、その余は認める。同3(1)のうち、先願明細書の「パイロットピンローラ35」「パイロットローラーシャフト33」「紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構を介して回転し、用紙5を給送する紙送り機構」が、本願考案の「用紙移送機構」に、先願明細書の「制御部47」が本願考案の「制御部」にそれぞれ相当することは争い、その余は認める。同3(2)のうち、一致点の認定は争い、相違点の認定は認める(但し、認定以外に相違点がある。)。同4(1)は認める。同4(2)は争う。同5は争う(但し、本願考案の考案者が先願発明の発明者と同一ではないこと、本願の出願時にその出願人と先願発明の出願人とが同一でないことは認める。)。

審決は、一致点の認定、相違点及び効果についての判断をいずれも誤り、本願考案と先願発明とは同一であると誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  一致点の認定の誤り(取消事由1)

(1) 先願発明は、フリクションローラ11、及びプリクシヨンローラ11をプラテン2に圧接・離脱させる手段を必須の構成要件とするプリンタである。このフリクションローラ11はプラテン2に巻回された連続用紙5を圧接挟持し、プラテン2の回転に伴い連続用紙5を給送する機能を有するもので(甲第12号証3頁左上欄16行ないし右上欄2行)、連続用紙5をプラテン2の印字領域に移送させる用紙移送機構の一部を構成するものである。そして、先願発明の用紙移送機構を構成するフリクションローラ11は、プラテン2から離れている状態においては回転しておらず、また、それが連続用紙5を圧接挟持するためにプラテン2に衝突した直後においてはプラテン2と同期して回転していない。したがって、先願発明の用紙移送機構はプラテン2の回転と非同期である。

これに対し、本願考案のプリンタは、連続用紙の装填に際してこれらフリクションローラ、フリクションローラ圧接・離脱手段が作用しないものであり、また、その用紙移送機構はプラテンと同期して回転することで連続用紙を円滑にプラテンの印字領域に移送させる構成である。

したがって、フリクションローラ11を除外し、先願発明の「パイロットピンローラ35」「ハイロットローラシャフト33」「用紙を給送する紙送り機構」が本願考案の「用紙移送機構」に相当するとした審決の認定は誤りであって、相違点を看過したものである。

(2) 本願考案のプリンタは用紙を連続移送して装填するように構成されているが、先願発明のプリンタは用紙を一旦停止し、所定のセットアップ動作後、用紙移送を再開して装填するように構成されており、制御部の構成が本願考案と先願発明とでは異なるから、先願発明の「制御部47」が本願考案の「制御部」に相当するとした審決の認定は誤りである。

(3) 以上のとおりであるから、一致点の認定は誤りである。

2  相違点についての判断の誤り(取消事由2)

(1) 審決は、「紙送りスイッチの押下動作に応答して印字用紙をプラテンに向けて連続して移送するように用紙移送機構を制御すること」が先願明細書に実質的に記載されているとしているが、誤りである。

<1> 先願明細書には、紙送りスイッチの押し下げにより連続用紙5をプラテン2に移送し、紙押えローラー18で該連続用紙をプラテン2に圧接するまでの流れが記述されており(甲第12号証3頁右下欄4行ないし4頁左下欄9行)、第9図にはその流れ図が示されている。

ところで、先願明細書には、連続用紙5の装填動作において、センサー17が連続用紙5を検出した時、紙送りモータをOFF(紙送りを停止)することも、紙送りモータをON継続(紙送り継続)することも明確に記述されていないが、第9図におけるステップ(g)のブロックに記載されている「紙送りモータON」とは、それまでOFFしていた紙送りモータをONする動作を示すものである。このことは、先願明細書中の「単票用紙23の先端を用紙有無検出部36が検出してからは連続用紙の場合と同様ステップ(d)以下によって単票用紙23は自動装着される。」(甲第12号証4頁左した欄7行ないし9行)との記載によっても裏付けられる。

また、第9図の流れ図は連続用紙と単票用紙兼用の用紙装填動作を示しており、単票用紙では用紙挿入をセンサー17が検出し、フリクションローラ11と紙押えローラー18が駆動された後に、ステップ(g)で紙送りモータがONし、紙送りが開始されると記載されており、しかも、先願明細書には、連続用紙の装填動作が単票用紙の場合と異なるとも記載されていないから、連続用紙も単票用紙と同様にフリクションローラ11と紙押えローラー18が駆動された後に、ステップ(g)で紙送りモータがONし、紙送りが開始されると解釈するのが相当である。

さらに、移動している連続用紙にフリクションローラを押しつけると、印字位置がずれたり、ジャムが発生したりする可能性が高いことから、連続用紙の移動を停止してからフリクションローラを圧着するというのが技術常識である。

以上のとおり、先願発明では、センサー17により連続用紙5が検出されたことを条件として、一旦紙送りモータをOFF(紙送りを停止)し、紙送り停止状態でフリクションローラ11で連続用紙5をプラテン2に圧着させるとともに、紙押えローラー18をプラテンから離反させ(ステップ(d)、(e)、(f))、しかる後、ステップ(g)で紙送りモータをONして紙送りを再開するものである。すなわち、先願発明のプリンタは、連続用紙をパイロットピン34に係合した位置からプラテンの印字領域まで連続移送するように構成されておらず、一旦停止するように構成されている。

<2> 審決は、先願明細書には、連続用紙を装填するための動作として、「センサー17の検出信号を受けると、紙送りモータ駆動制御手段38は紙送りモータ駆動部45を制御駆動するとともに、紙送り量を計数手段で計数する(ステップ(g)、(h))。」ことが記載されているとしているが、先願明細書には、「センサー17の検出信号を受けると、」という記載はないし、上記のような認定は、ステップ(g)がステップ(d)、(e)、(f)と並列的な動作を行うことを示すものであって、誤りである。先願明細書には、センサー17の検出信号を受けるとフリクションローラ11が駆動されて連続用紙5をプラテンに圧着させ(ステップ(d))、紙押えローラー18が駆動されてプラテンから離れた開位置になり(ステップ(e)、(f))、このように設定された後にステップ(g)において紙送りモータ駆動部45が制御駆動することが記載されているだけである。

審決は、連続用紙の場合、すでに紙送りスイッチを押し下げて紙送りモータを駆動しているので、第9図のステップ(g)で「紙送りモータをON」することは不要であり、単票用紙の場合のみ「紙送りモータをON」することが必要であるとしている。しかし、先願明細書には、連続用紙の場合に「紙送りモータをON」することが不要であると解釈しなければならない記述はない。

審決は、先願明細書に記述されていないOR回路を導入し、OR回路の一方の入力に「紙送りスイッチ」による信号を、他方の入力に「センサー17」による検出信号を入力して、紙送りモータのオン・オフを制御していると認定している。しかし、かかるOR回路によれば、単票用紙を装填する場合に先願明細書の記載と矛盾する。すなわち、OR回路を導入すると、手挿入により単票用紙がセンサー17に検出されると紙送りモータが直ちにオンして紙送りが開始し、しかる後、フリクションローラ11、紙押さえローラ18が動作することになる。かかる動作順序は第9図の流れ図におけるステップ(d)、(e)、(f)の動作順序と矛盾する。

さらに審決がいうように、連続用紙の場合はステップ(g)の「紙送りモータをON」することが不要で、単票用紙の場合は「紙送りモータをON」することが必要と解釈すべきものであるならば、連続用紙と単票用紙で装填動作が異なり、それぞれに応じた流れ図が必要である。しかし、先願明細書には、それぞれの流れ図は記載されておらず、連続用紙、単票用紙に共通に第9図の流れ図が示されているだけであって、しかも、ステップ(g)における「紙送りモータをON」の意味が連続用紙と単票用紙で異なるという記載もない。

(2) 審決は、「紙送りスイッチが用紙の自動装填を指示するスイッチであり、紙送りスイッチの1回の押下動作に応答して印字用紙をプラテンに向けて移送するように用紙移送機構を制御すること」が先願明細書に実質的に記載されているとしているが、誤りである。

<1> 先願明細書の従来例の記述(甲第12号証2頁右上欄9行ないし左下欄6行)を参照すると、従来のプリンタでは連続用紙5の送り孔6をスプロケットピン7に係合させた後、プラテンノブを手で回転して連続用紙5をスプロケットピン7から反射型センサー17の位置まで送り、センサー17が連続用紙を検出した後紙送りモータを回転して連続用紙5をプラテン2の印字領域に移送させるものであった。また、先願発明の課題の記述(同号証2頁右下欄2行ないし13行)によれば、従来のプリンタではプラテンノブを手で回転して連続用紙を挿入するため、用紙装着が複雑であったことから、先願発明はかかる複雑な手操作をなくすためになされたものであると認められる。

したがって、先願発明のプリンタは、プラテンノブを回転して連続用紙5をセンサー17の位置まで送る代わりに、紙送りモータを回転することにより連続用紙5をセンサー17の位置まで送るようにしたものであり、先願発明の紙送りスイッチは、連続用紙5を紙送りモータでセンサー17の位置まで送るために押し下げるスイッチであって、連続用紙5をプラテン2の印字領域に自動装填することを指示するスイッチではない。

<2> 先願明細書には、連続用紙5をセンサー17の位置まで送る場合、紙送りスイッチを連続押しするのか、間欠的に押し下げるのか、1回の押し下げでよいのか明示されていない。しかし、先願発明の出願当時の紙送りスイッチを有するプリンタでは、用紙を印字位置まで移送するためには紙送りスイッチの連続押しあるいは間欠押しにより、人の操作で用紙をプラテンの印字領域まで送るものであり、1回の押し下げで連続用紙をプラテンの印字領域まで送って印刷可能な状態に自動装填するベールローラ等を含むプリンタは知らないし、そのようなことが記載された文献も知らない。このような当時の技術からすると、先願明細書における操作は、連続用紙を反射型センサーの位置まで送るように紙送りスイッチを間欠的に押し下げ、あるいは連続的に押し下げるものというべきである。すなわち、先願発明のプリンタは紙送りスイッチの1回の押下動作に応答して連続用紙5をセンサー17の位置まで送るものではなく、ましてや紙送りスイッチの1回の押下動作に応答して連続用紙をプラテンの印字領域に向けて移送するものではない。

甲第13号証に記載された発明は、連続用紙がすでにプリンタに装填された状態で、1回の用紙セットスイッチ(自己保持型スイッチ)14の押し下げにより紙送りモータを駆動して、単位用紙の印刷開始部分をハンマー・プラテン対向位置に位置決めするものである。しかし、1回の押し下げにより連続用紙をスプロケットホイール位置からプラテンの印字領域まで連続的に移送してプリンタに自動装填するものではない。すなわち、用紙自動装填を指示するスイッチを自己保持型スイッチにすることは周知ではない。

したがって、先願明細書には「紙送りスイッチの1回の押下動作に応答して印字用紙をプラテンに向けて移送するように用紙移送機構を制御すること」は実質的に記載されていない。

3  効果についての判断の誤り(取消事由3)

審決は、本願考案と先願発明とに、目的、効果の点で何ら差異はないとしているが、以下述べるとおり誤りである。

本願考案では、用紙セットスイッチの1回の押し下げで用紙が装填できるから、先願発明のように連続押し下げあるいは間欠押し下げ、さらに移送状態の目測が不要となる。本願考案では、連続用紙を自動装填する際、途中で停止することなく連続して用紙を移送させることができるから、短時間で連続用紙の装填ができる。これに対して、先願発明では、センサーにより用紙が検出されたとき一旦紙送りを停止し、しかる後、フリクションローラ、紙押えローラーを動作させてから紙送りを再開するものであるため、用紙装填時間が本願考案に比べて長くなる。

本願考案では、途中で停止しないため、加減速制御をして高速化する場合でも、途中停止時の減速制御や用紙移送再開時の加速制御が不要となり、高速の連続用紙の自動装填ができる。また、途中で停止しないため、どの時点で減速を開始するか決定するためのハードウエア等を不要にできる。

本願考案では、用紙移送機構がプラテンと同期して回転し、連続用紙の供給を行うためフリクションローラ、フリクションシャフト、フリクションレバー、フリクションプランジャ等の構成が不要となり、機構部及び制御部の構成を簡単にでき、しかも、フリクションローラ廻りでの故障発生という事態がなくなるため製品品質、保守の点で有利である。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

二  反論

1  取消事由1について

(1) 原告は、先願発明のプリンタは用紙を一旦停止し、所定のセットアップ動作後、用紙移送を再開して装填するように構成されており、制御部の構成が本願考案と先願発明では異なるから、先願発明の「制御部47」が本願考案の「制御部」に相当するとした審決の認定は誤りである旨主張するが、後記2に詳述するとおり、先願発明においては紙送りを一旦停止していないから、上記主張は失当である。

(2) 原告は、先願発明は連続用紙の装填に際してフリクションローラ及びフリクションローラをプラテンに圧接・離脱させる手段を必須の構成要件としている旨主張している。

しかし、例えば、先願明細書に従来技術として第2図に記載されているもののように、フリクションローラをプラテンに圧着しなくても、連続用紙の移送はパイロットピンローラによって行うことができるから、同様にパイロットピンローラによって連続用紙を移送する先願発明においても、フリクションローラ及びフリクションローラを圧接・離脱させる手段は、連続用紙の移送については必須の構成要件ではない。

原告は、先願発明のフリクションローラは連続用紙をプラテンの印字領域に移送させる用紙移送機構の一部を構成している旨主張しているが、連続用紙の移送に際して、フリクションローラは不可欠な構成ではないから、連続用紙の移送に際して、フリクションローラは先願発明の紙送り機構(用紙移送機構)の一部を構成するものであるとする必然性はない。

さらに原告は、先願発明のフリクションローラは、プラテンから離れている状態においてプラテンと同期して回転していないから、先願発明の用紙移送機構はプラテンの回転と非同期である旨主張しているが、先願発明のフリクションローラは連続用紙を移送する際に紙送り機構(用紙移送機構)の一部を構成するものではないから、フリクションローラがプラテンから離れている際に停止していてプラテンと同期して回転していないからといって、先願発明のパイロットピンローラ等の紙送り機構(用紙移送機構)がプラテンと同期して回転していないということはできない。

したがって、先願発明の「パイロットピンローラ35」「パイロットローラーシャフト33」「紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構を介して回転し、用紙4を給送する紙送り機構」が本願考案の「用紙移送機構」に相当するものとした審決の認定に誤りはない。

2  取消事由2について

(1)<1> 原告は、先願発明は連続用紙の移送を一旦停止しているとして、ステップ(g)の「紙送りモータをON」とはそれまでOFFしていた紙送りモータをONする動作を示すものである旨主張している。

しかし、先願発明では、単票用紙の装填の際には、センサー17が用紙先端を検出した信号に基づいて、ステップ(g)で自動的に紙送りモータがONするものであるが、連続用紙の装填の際には、紙送りスイッチを押し下げることによって紙送りモータがすでに駆動されているものであるから、ステップ(g)で自動的に紙送りモータをONする信号が出力されても、だからといって、その前に紙送りモータをOFFとしなければならないものではないから、原告の上記主張は失当である。

<2> 原告は、連続用紙の装填動作が単票用紙の装填動作と異なるものではないから、連続用紙も単票用紙と同様に、ステップ(g)で紙送りモータがONし紙送りが開始されるものである旨主張する。

しかし、先願発明の連続用紙の装填動作は、パネル29の紙送りスイッチを押し下げると紙送りモータが起動するものであるのに対して、単票用紙の装填動作はスイッチを押し下げるものではなく、センサーで用紙先端を検出した信号に基づいて紙送りモータが起動されるものであるから、連続用紙の装填動作と単票用紙の装填動作は異なるものであり、原告の上記主張は失当である。

<3> 原告は、用紙の移送中にローラで用紙をプラテンに圧着しないことは技術常識であるから、先願発明においても、フリクションローラを圧着させるためには用紙が停止していなければならない旨主張しているが、乙第2号証にも記載されているように、ローラで用紙をプラテンに圧着するからといって、プラテンの回転を停止しなければならない必然性があるものではないから、上記主張は失当である。

<4> 原告は、先願明細書には、センサー17の検出信号を受けるとフリクションローラ11が駆動されて連続用紙5をプラテンに圧着させ(ステップ(d))、紙押えローラー18が駆動されてプラテンから離れた開位置になり(ステップ(e)、(f))、このように設定された後にステップ(g)において紙送りモータ駆動部45が制御駆動することが記載されているだけである旨主張するが、先願明細書の第9図のフローチャートのステップ(d)~(g)は、フリクションローラを圧着させる制御命令(ステップ(d))から紙送りモータ駆動部を制御駆動する制御命令(ステップ(g))にいたる制御命令の流れを示すものであって、処理の終了の流れを示すものではない。

また、原告は、審決が先願明細書には「センサー17の検出信号を受けると、紙送りモータ駆動制御手段38は紙送りモータ駆動部45を制御駆動するとともに、紙送り量を計数手段で計数する(ステップ(g)、(h))。」ことが記載されているとした点について、ステップ(g)がステップ(d)、(e)、(f)と並列的な動作を行うことを示すものであって、誤りである旨主張するが、CPUによる命令実行時間からいって、センサー17の検出信号を受けると、極めて短時間の時間差をもってステップ(d)~ステップ(g)の処理を行う制御命令が発せられ、当該制御命令に基づく、ステップ(d)~ステップ(g)の処理は同時に行われているとみなすことができるから、上記認定に誤りはない。

(2) 原告は、先願発明の紙送りスイッチは連続用紙を紙送りモータでセンサー17の位置まで送るために押し下げるスイッチであり、連続用紙をプラテンの印字領域に自動装填することを指示するためのスイッチではない旨主張している。

しかし、前記のとおり、先願発明は連続用紙の移送を一旦停止するものではないので、紙送りスイッチにより起動された紙送りモータが、センサーの位置で停止しなければならないものではなく、反射型センサー17上を連続用紙の先端が通過した後も紙送りモータは継続して回転を続けるものである。したがって、先願発明の紙送りスイッチは、押し下げることによって連続用紙をプラテンの印字領域に自動装填することを指示するためのスイッチであって、原告の上記主張は失当である。

また、原告は、先願発明の紙送りスイッチは1回の押下動作に応答して連続用紙をプラテンの印字領域に自動装填することを指示するためのスイッチではない旨主張する。

しかし、先願発明の連続用紙の装填動作は上記のとおりであり、また、紙送りスイッチの1回の押し下げに応答して用紙を連続的に移送することは周知の技術であるから、先願発明の紙送りスイッチは1回の押下動作に応答して連続用紙をプラテンの印字領域に自動装填することを指示するためのスイッチということができるものである。

3  取消事由3について

原告は、本願考案は途中で停止することなく連続して用紙を移送させることができるから、短時間で用紙の装填ができるとともに、加減速制御して高速化することが可能であり、停止・減速制御のためのハードウエア等が不要である旨主張する。

しかし、先願発明も、連続用紙の装填に際して、紙送りスイッチの1回の押下動作に応答して印字用紙をプラテンに向けて移送し、規定量の用紙が送られたことに基づいて用紙の装填動作を終了するものであって、途中で用紙の移送を一旦停止するものではない。したがって、上記効果は本願考案の特有の効果ではない。

また、原告は、本願考案はフリクションローラ廻りでの故障発生という事態がなくなる旨主張するが、連続用紙を移送するための技術的手段として、フリクションローラが先願発明の必須の構成要件であるとはいえないかり、フリクションローラ廻りでの故障発生という事態がなくなることは、本願考案の特有の効果ではない。

したがって、本願考案と先願発明とに目的、効果の点で差異がないとした審決の判断に誤りはない。

第四  証拠

証拠関係は、記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)、三(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、先願明細書に審決摘示の技術事項(但し、審決の理由の要点2の(エ)<4>を除く。)が記載されていること、本願考案と先願発明との間に審決認定の相違点があること、本願考案の考案者が先願発明の発明者と同一ではなく、本願の出願時にその出願人と先願発明の出願人とが同一ではないことについても、当事者間に争いがない。

二  原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

1  取消事由1について

(1)  上記のとおり、先願明細書には審決摘示の技術事項(但し、審決の理由の要点2の(エ)<4>を除く。)が記載されており、先願明細書の「紙押えローラー18」「紙押えプランジャー駆動部」「センサー17」が、それぞれ本願考案の「ベールローラ」「ベールローラを揺動する駆動源」「用紙検出部」に相当することについては、当事者間に争いがない。

(2)  先願明細書のパイロットピンローラ35とプラテン2とは紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構を介して回転し、用紙を給送する紙送り機構を形成しているものであるところ(このことは当事者間に争いがない。)、原告は、先願発明のフリクションローラ11が連続用紙5をプラテン2の印字領域に移送させる用紙移送機構の一部を構成するものであること、フリクションローラ11はプラテン2の回転と非同期であることを理由として、フリクションローラ11を除外し、先願発明の「パイロットピンローラ35」「パイロットローラシャフト33」「紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構を介して回転し、用紙を給送する紙送り機構」が本願考案の「用紙移送機構」に相当するとした審決の認定は誤りであり、相違点を看過したものである旨主張するので、この点について検討する。

先願明細書の発明の詳細な説明には、「11はフリクシヨンローラであり、フリクションプランジャー24の吸引動作でフリクションシャフト12を介してプラテン2に巻回された用紙5を圧接挟持し、プラテン2が紙送りモータ(図示せず)等の駆動手段により回転するとプラテン2と共に回転し、用紙5を給送する様に構成されている。」(甲第12号証3頁左上欄16行ないし右上欄2行)と記載されていることが認められる。

ところで、先願明細書の特許請求の範囲は、「挿入された用紙を検知する用紙検知手段と、前記用紙の給紙を行なう紙送り機構と、前記用紙をプラテンに圧着する第1および第2の紙押え機構と、前記第2の紙押え機構の状態を検知する紙押え検知手段と、前記用紙検知手段で前記用紙の挿入を検知した用紙検知信号に基いて、前記第1の紙押え機構を駆動して前記用紙を前記プラテンに圧着する第1の紙押え制御手段と、前記用紙検知信号に基いて、前記紙送り機構を所定量だけ駆動する紙送り制御手段と、前記紙押え検知手段で前記第2の紙押え機構の前記プラテンへの圧着を検知した紙押え信号に基いて、前記第2の紙押え機構を駆動して前記プラテンから開放させる第2の紙押え制御手段とを備えたことを特徴とする印字装置。」(甲第12号証の特許請求の範囲の項)というものであって、「挿入された用紙の給紙を行なう紙送り機構」と「挿入された用紙をプラテンに圧着する第1の紙押え機構」とを必須の構成とするものであるが、先願明細書の発明の詳細な説明によれば、フリクションローラ11、及びその圧接・離脱手段であるフリクションプランジャー24は上記第1の紙押え機構に当たるものであり、紙送り機構を形成するものは紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構を介して回転するパイロットピンローラ35やプラテン2等であって、連続用紙の場合にはパイロットピンローラ35によって移送することができるものと認められること、フリクションローラ11がプラテン2に連続用紙を圧接することによりプラテンと連続用紙との間に摩擦力が働き、この力が連続用紙の紙送り作用として現れるものであって、フリクションローラ11自体は直接紙送りの作用を担当するものではなく、フリクションローラ11が回転するのも、プラテンの紙送り作用を阻害しないために単に連れ回りしているにすぎないものと考えられることからすると、フリクションローラ11が「用紙移送機構」として必須の構成であるとまでは認め難い。

したがって、フリクションローラ11を除外し、先願発明の「パンロットピンローラ35」「ハイロットローラシャフト33」「紙送りモータ等の駆動手段及び伝達機構を介して回転し、用紙4を給送する紙送り機構」が本願考案の「用紙移送機構」に相当するとした審決の認定に誤りはなく、相違点を看過したものということはできない。

なお、上記のとおりフリクションローラ11は用紙移送機構を構成するものとは認め難いのであるから、その回転がプラテン2の回転と非同期であるからといって、審決の上記認定の正当性が妨げられるものでないことは明らかである。

(3)  原告は、本願考案のプリンタは用紙を連続移送して装填するように構成されているが、先願発明のプリンタは用紙を一旦停止し、所定のセットアップ動作後、用紙移送を再開して装填するように構成されており、制御部の構成が本願考案と先願発明とでは異なるから、先願発明の「制御部47」が本願考案の「制御部」に相当するとした審決の認定は誤りである旨主張するが、連続移送の点に関しては、審決が相違点として取り上げ、判断してい、るところであるから、「紙送りモータ駆動制御手段38」と「紙押えプランジャー駆動制御手段40」と「計数手段」とを含む「制御部47」が本願考案の「制御部」に相当するとした審決の認定に誤りがあるとはいえない。

(4)  以上のとおりであって、審決の一致点の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

2  取消事由2について

(1)  原告は、先願発明では、センサー17により連続用紙5が検出されたことを条件として、一旦紙送りモータをOFF(紙送りを停止)し、紙送り停止状態でフリクションローラ11で連続用紙5をプラテン2に圧着させるとともに、紙押えローラー18をプラテンから離反させ(ステップ(d)、(e)、(f))、しかる後、ステップ(g)で紙送りモータをONして紙送りを再開するものであって、先願発明のプリンタは、連続用紙をパイロットピン34に係合した位置からプラテンの印字領域まで連続移送するように構成されておらず、一旦停止するように構成されている旨主張するので、この点について検討する。

<1> 先願発明に係るプリンタにおいて用紙を装着するための動作について、先願明細書には、「ステップ(c)の用紙挿入の時に連続用紙を使用する場合、連続用紙5の送り孔6をパイロットピン34に係合させ、パネル29の紙送りスイッチを押下げると紙送りモーターが駆動し、連続用紙5をプラテン2と用紙案内ガイド板15との間に案内する。連続用紙5が反射型センサー17上を通過すると反射型センサー17の出力端子Sは第8図に示すようはにLレベルからHレベルに変化する。この信号を受けたフリクションプランジャー駆動制御手段37は、ステップ(d)(「ステップ(a)」とあるのは誤記と認める。)でフリクションプランジャー24を矢印F方向に動作させる制御信号をフリクションプランジャー駆動部44に出力し、フリクションローラ11を連続用紙5と共にプラテン2に圧着する。・・・ステップ(e)で紙押えプランジャー駆動制御手段40は、紙押えレバー開閉検出部からの信号により紙押えレバー19の状態を検知する.もし、紙押えレバー19がプラテン2より離れていればステップ(g)へ進むが、紙押えレバー19がプラテン2側に倒れている時、ステップ(f)で紙押えプランジャー駆動制御手段40は紙押えプランジャー25を矢印G方向に動作させ紙押えレバー19をプラテン2より離反させる。こうしてステップ(g)で紙送りモータ駆動制御手段38は紙送りモータ駆動部45を制御駆動するとともに紙送り量を計数手段39で計数する。・・・次に単票用紙を使用する場合、ステップ(b)でフリクションローラ11はプラテン2から解放されている為、単票用紙23を手等で、プラテン2と用紙案内ガイド板15との間に落込むようにするだけでスムーズに反射型センサー17まで到達する。単票用紙23の先端を用紙有無検出部36が検出してからは連続用紙の場合と同様ステップ(d)以下によって単票用紙23は自動装着される。」(甲第12号証4頁左上欄3行ないし左下欄9行)と記載されていることが認められる(但し、上記記載のうち、審決の理由の要点2(イ)、(ウ)、(エ)<1>ないし<3>に相当する部分については、当事者間に争いがない。)。

ところで、先願明細書には、「47はフリクションプラジャー駆動制御手段37、紙送りモータ駆動手段38、計数手段39、紙押えプランジャー駆動制御手段40、ON LINEスイッチ切換手段41をマイクロコンピュータで実現した制御部である。」(甲第12号証3頁左下欄16行ないし末行)と記載され、その第5図(別紙図面2の第5図)には先願発明の実施例のブロック図が、第9図(別紙図面2の第9図)には先願発明の実施例の処理手順を示すフローチャートがそれぞれ記載されているが、上記記載及び第5図、第9図の記載内容によれば、第9図のフローチャートは、第5図及び制御部47の処理手順を示すものであり、制御部47に基づく処理は入出力はに関する制御命令であることから、第9図のステップ(d)ないし(g)は制御部47に基づく制御命令の流れを表すものであると認められる。

もっとも、上記のとおり、先願明細書には、「この信号を受けたフリクションプランジャー駆動制御手段37は、ステップ(d)で・・・フリクションローラ11を連続用紙5と共にプラテン2に圧着する。・・・ステップ(e)で紙押えプランジャー駆動制御手段40は、紙押えレバー開閉検出部からの信号により紙押えレバー19の状態を検知する。もし、紙押えレバー19がプラテン2より離れていればステップ(g)へ進むが、紙押えレバー19がプラテン2側に倒れている時、ステップ(f)で紙押えプランジャー駆動制御手段40は・・・紙押えレバー19をプラテン2より離反させる。こうしてステップ(g)で紙送りモータ駆動制御手段38は紙送りモータ駆動部45を制御駆動する」と、ステップ(d)ないし(g)の制御命令を受けた各部材の動作が説明されているが、これは、部材毎の動作が順次記述されているにすぎないものと認めるのが相当であって、ステップ(d)の処理が終了した時にステップ(e)の処理を行い、ステップ(e)の処理が終了した時にステップ(f)又はステップ(g)の処理を行い、ステップ(f)の処理が終了した時にステップ(g)の処理を行うといった、ある部材の動作が終了した時に次の部材の動作を行うということを意味するものとは認められないのであって、上記記載から、第9図のフローチャートが制御命令と処理終了の両方を含むプリンタの動作の流れを表したものとは認め難い。

この点に関連して、原告は、先願明細書には、「センサー17の検出信号を受けると、」という記載はないし、センサー17の検出信号を受けるとフリクションローラ11が駆動されて連続用紙5をプラテンに圧着させ(ステップ(d))、紙押えローラ18が駆動されてプラテンから離れた開位置になり(ステップ(e)、(f))、このように設定された後にステップ(g)において紙送りモータ駆動部45が制御駆動することが記載されているとして、先願明細書には、「センサー17の検出信号を受けると、紙送りモータ駆動制御手段38は紙送りモータ駆動部45を制御駆動するとともに、紙送り量を計数手段で計数する(ステップ(g)、(h))。」ことが記載されているとした審決の認定は誤りである旨主張する。

確かに、先願明細書には、「ステップ(g)で紙送りモータ駆動制御手段38は紙送りモータ駆動部45を制御駆動するとともに紙送り量を計数手段39で計数する。」(甲第12号証4頁右上欄12行ないし14行)と記載されているが、先願明細書の特許請求の範囲には、「・・・前記用紙検出信号に基いて、前記紙送り機構を所定量だけ駆動する紙送り制御手段と、・・・」と記載されていること、上記のとおり、先願明細書の第9図に記載のステップ(d)ないし(g)は、フリクションローラを圧着させる制御命令(ステップ(d))から紙送りモータ駆動部を制御駆動する制御命令(ステップ(g))までの制御命令の流れを示すものであって、処理の終了を含むプリンタの動作を示すものとは認め難いこと、制御部47を構成するマイクロコンピュータの命令実行時間からして、センサー17の検出信号を受けると、これらの制御命令に基づく処理はほとんど同時に行われるものと考えられることからすると、審決の上記認定に誤りはないものというべきである。

<2> 次に、先願明細書の第9図のステップ(g)には「紙送りモータON」と記載されているところ、先願明細書の前記「単票用紙を使用する場合、ステップ(b)でフリクションローラ11はプラテン2から解放されている為、単票用紙23を手等で、プラテン2と用紙案内ガイド板15との間に落込むようにするだけでスムーズに反射型センサー17まで到達する。単票用紙23の先端を用紙有無検出部36が検出してからは連続用紙の場合と同様ステップ(d)以下によって単票用紙23は自動装着される。」との記載によれば、先願発明において、単票用紙を装填する場合には、用紙がセンサー17で検出されると、ステップ(g)で自動的に紙送りモータがONするものと認められる。

これに対し、連続用紙の装填の場合には、紙送りスイッチを押し下げることによってすでに紙送りモータが駆動しているものであるところ、先願明細書には、制御部47が、紙送りスイッチが押し下げられているか否か、紙送りモータが駆動しているか否かを検知する機能を有する旨の記載はないし、センサー17が連続用紙を検出した時、紙送りモータをOFF(紙送りを停止)する旨の記載もないこと、紙送りモータが駆動状態にある時、「紙送りモータ駆動部45」に「紙送りモータON」信号を重複して入力してはならないとする技術的理由はないこと、先願発明においては、用紙検出信号に基づいて紙送り機構を所定量だけ駆動する制御が行われるものであって(特許請求の範囲の記載)、用紙が停止している単票用紙の場合も、用紙が移動している連続用紙の場合も、用紙を検知してから用紙の移動量を計数する制御を行うという点では変わらないから、連続用紙の場合に紙送りモータをOFFにしなければならない技術的理由があるとは考えられないこと、上記のとおり先願明細書には、「単票用紙23の先端を用紙有無検出部36が検出してからは連続用紙の場合と同様ステップ(d)以下によって単票用紙23は自動装填される。」と記載されているが、上記<1>で述べたところに照らしても、この記載の趣旨は、制御部47のステップ(d)以下の制御命令が単票用紙と連続用紙とで同様であることをいうものであって、プリンタの動作までが同じであるというものではなく、ステップ(g)についていえば、制御部47が「紙送りモータON」の信号を出力するという点で同様ということであって、単票用紙の場合のように「紙送りモータが始動する」という動作の点までも同様であるということを意味するものとは解されないこと、を総合すると、先願発明において、センサー17により連続用紙5が検出されたことを条件として、一旦紙送りを停止していると解することは相当ではないというべきである。

原告は、移動している連続用紙にフリクションローラを押しつけると、印字位置がずれたり、ジャムが発生する可能性が高いことから、連続用紙の移動を停止してからフリクションローラで圧着するというのが技術常識であって、用紙検出後に紙送りモータをOFFしていると解すべきである旨主張するが、上記事項が技術常識であることを認めるべき証拠はないし、先願明細書には、上記のような不都合を避けるために用紙走行中にフリクションローラを圧接しないようにしていることを示唆する記載もなく、上記主張は採用できない。

その他、上記説示に反する原告の主張は採用できない。

<3> 以上のとおりであって、原告の前記主張は理由がない。

(2)  原告は、<1>先願発明の紙送りスイッチは連続用紙5を紙送りモータでセンサー17の位置まで送るために押し下げるスイッチであって、連続用紙5をプラテン2の印字領域に自動装填することを指示するためのスイッチではない旨、及び、<2>先願発明の紙送りスイッチは1回の押下動作に応答して連続用紙5をプラテンの印字領域に向けて移送するものではない旨主張するので、この点について検討する。

<1> まず、上記(1)で説示したとおり、先願発明においては、センサー17の検出信号を受けた後、一旦紙送りモータをOFF(紙送り停止)させることなく、連続用紙をプラテンの印字領域に向けて連続して移送するものである。したがって、先願発明の紙送りスイッチは、押し下げることによって連続用紙をプラテンの印字領域に自動装填することを指示するスイッチということができるから、原告の上記<1>の主張は理由がない。

<2> 先願発明が簡素な構成により安定した用紙の自動吸入機構を実現し、加えて用紙の自動装着機構を有した印字装置の提供を目的とするものであること、スイッチを押下動作すると、その押下動作の都度信号が生ずるようにスイッチの回路を構成するか、一回のスイッチの押下動作でその信号を保持するようにスイッチ回路を構成する(自己保持型)かといったことは、回路設計に際して任意になし得る単なる設計的事項であること、自己保持型スイッチを連続用紙の用紙移送の制御に用いることは当業者に周知の事項であることについては、当事者間に争いがない。

そして、先願明細書には、「連続用紙5が反射型センサー17上を通過すると反射型センサー17の出力端子Sは第8図に示すようにLレベルからHレベルに変化する。」(甲第12号証4頁左上欄8行ないし11行)と記載されているように、先願発明において、連続用紙が反射型センサーの位置まで送られたことは反射型センサー自体が検知するものである。

先願発明の上記目的、自己保持型スイッチとするか否かは単なる設計的事項であること、自己保持型スイッチを連続用紙に用いることは周知であること、及び、先願明細書の上記記載を総合すると、先願発明において、連続用紙が反射型センサーの位置に送られるまで、スイッチを押し続ける、あるいは間欠的に押すために、人がプリンタに付き添っていなければならないような仕様・設計がなされているとは到底考えられず、一回スイッチを押下すればそのままモータは駆動され続け、連続用紙5をプラテンの印字領域に向けて移送するものと認めるのが相当である。

したがって、原告の上記<2>の主張は理由がない。

なお原告は、審決が引用した特開昭52-17908号公報(甲第13号証)について、1回の押し下げにより連続用紙をスプロケットホイール位置からプラテンの印字領域まで連続的に移送してプリンタに自動装填するものではなく、用紙自動装填を指示するスイッチを自己保持型にすることは周知ではない旨主張するが、審決が甲第13号証を引用した趣旨は、自己保持型スイッチを連続用紙の用紙移送の制御に用いることが周知であることを示すためにすぎないのであるから、上記主張は当を得ないものである。

(3)  以上のとおりであるから、先願明細書の「紙送りスイッチ」は、紙送りスイッチの1回の押下動作に応答して印字用紙をプラテンに向けて連続して移送するように用紙移送機構を制御しているものであり、また、1回押下動作すれば用紙の自動装填が行われるものであるから、用紙の自動装填を指示するものであって、相違点は先願明細書に実質的に記載されているとした審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

3  取消事由3について

原告は、本願考案は先願発明に比して、効果の点で、請求の原因四3に記載のとおり優れている旨主張しているが、この主張は、先願発明の紙送りスイッチは連続用紙をセンサー17の位置まで送るのに連続押し下げ、あるいは間欠押し下げが必要であること、先願発明ではセンサーにより用紙が検出されたときは一旦紙送りを停止すること、フリクションローラ11が用紙移送機構として必須のものであることを前提とするものである。

しかし、これらの前提が理由のないことは、上記1、2において説示したとおりである。

したがって、本願考案と先願発明とに、目的、効果の点で何ら差異があるものとは認められないとした審決の判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。

三  以上のとおりであって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決に取り消すべき違法はない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

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